※新刊のリリースを記念し白馬社社長・西村孝文と社会学作家・秋嶋亮の対談を公開します※
西村:それにしても、腹にズシリとくるタイトルですね。
秋嶋:ありがとうございます。
西村:早速ですが、内容をざっと紹介して頂けますか?
秋嶋:新著は「ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ」シリーズの締め括りとなる作品です。多国籍企業支配(グローバリゼーション)、政治談合、コロナ禍、ワクチン、原発事故、財政破綻、改憲、国民搾取、言論統制、ネット監視、戦争国家化など、我々が直面する喫緊の問題について徹底的に検証しています。また過去作品には「解決策が記されていない」と批判が寄せられましたので、今回は具体的にどう対処すべきなのかマニフェスト形式でソリューションを綴っています。もっとも実行に移すとなると、簡単ではありませんが。
西村:秋嶋さんの文章はとても難しいと言われていますが(笑)、今回は弊社の編集者との対話文形式なので、とても読みやすいですね。一文一文が口語で簡潔にまとめられているので、これなら(スマホに馴染んで)長文が読めなくなった人でも大丈夫でしょう。
秋嶋:ご覧の通り装丁はビビッド・ピンクという学術書にあるまじきデザインですが、これは政治や経済の本に馴染みが薄かった女性や若年世代が手に取るきっかけになればと思ってのことです。と言うのは、一連の社会改革によって最も犠牲になっているのがこの層なのです。だから、なぜ自分たちがこれほど苦しむのか、なぜこれほど搾取されるのか、その構造や仕組みを理解して頂きたいのです。
西村:このところ貧困や自殺などの問題が深刻化しています。ワ〇〇○の被害も広がっている。しかし、なぜこれほどまでに国民が虐げられるのか、これまで世界的な経済や金融の枠組みから解明されていなかった。
秋嶋:そのような極めて複雑な問題を、誰にでも分かりやすく書き記すことが、今回の執筆の最大の課題だったわけです。
西村:しかも的確なジャーゴン(学術用語)で一つ一つの出来事を丁寧に観念化している。これほど語彙(ことば)が充実した本は他にないでしょう。
秋嶋:その意味において、これは社会学書であると同時に哲学書でもあるわけです。哲学とは物事や現象を明確な言葉に表す学問です。言葉があやふやだと、認識や理解もあやふやになりますからね。だから簡潔な一語で示すことが重要なのです。「はじめに言葉ありき」なのです。そこが全ての出発点なのです。
西村:新著は日本を分析する書籍の中では、おそらく最高レベルのものでしょう。とてつもなく高度で深淵だけれど誰にでも理解できる。高齢者にも、未成年者にも、初心者にも、専門家にも、研究者にもお薦めできる内容です。
秋嶋:そう言って頂けると何よりです。
西村:それにしても本書で取り上げられた問題は一刻の猶予もないことばかりです。中でも改憲案に示された緊急事態条項は重大な問題です。これが成立してしまうと、日本はあっという間にファシズム化してしまう。それなのにマスコミはこれを全く取り上げようとしない。現に一般国民はこのような問題があることすら知りません。リテラシーの高い一部の人たちが事の重大さに気づいて、ツイッターなどで互いに情報を持ち寄り、取り沙汰しているだけです。
秋嶋:しかし今ではSNSも政治工作の場と化しています。つまりSNS住民たちも巧妙に認知操作されているわけです。
西村:確かにこのところ、SNSの反政府の人たちが、あたかも自公の政策を支持するような発信をするという奇妙なことが起きています。差し障りがあるので、あえて具体的には言いませんが。
秋嶋:インターネット・ミームとか、ミーム・プレックスという言葉があります。これは要するに、ネットで伝言ゲームのように繰り返されている言葉や概念が、全く裏付けが無いにもかかわらず、事実や常識として定着するという現象です。
西村:まえがきの中に出てくる「常套句の中の議論」とはそれを批判した言葉なのですね。
秋嶋:その通りです。自分の頭で考え、自分の言葉で話しているつもりでも、実は支配層に与えられた常套句(ストック・フレーズ)を口にしているだけなのです。
西村:支配層はそれを上手く利用しているわけですね。
秋嶋:反政府の人たちが金科玉条のように唱えている言葉の多くが、実は政府側から流布された誤謬(間違って認識するように仕向ける言葉)なのです。そうやって反政府の人たちは政府側に回収されているわけですが、それを自覚していない。「オレは大丈夫だ」とか「私はよく分かっている」と思っている人ほど実際はそうではないのです。新著はその誤謬(ウソ)を一つ一つ解説して、「いかに騙されているのか」を証明的に記述することを主眼に置いているわけです。
西村:しかし、自分が絶対だと信じていることが嘘だという現実を突きつけられるのはキツイ。これには相当な反発があるでしょうね。
秋嶋:社会学とは「常識を解体する学問」なのです。絶対の真理や事実とされていることが、実は全くそうではないのだと、論理を事実に突き合わせ、提示することが仕事なわけです。もっと簡単に言うと、社会学とは「世の中のウソを暴く学問」なのです。
西村:その意味において、『無思考国家』を読むには、覚悟が問われますね。
秋嶋:人間というのは、自分の信念を覆す事実を突きつけられた時にどう振る舞うかで分かるのです。
西村:都合の悪いことを聞かなかったこと、読まなかったことにして片付けるのか、それとも無知を自覚して、現実の複雑さに耐えて、成長や覚醒を目指すのか、二つに分かれるわけですね。
秋嶋:映画「マトリックス」で、モーフィアスがネオに青と赤のピルを差し出すシーンがありますよね。青いピル(幻想薬)を飲めば、これまでと変わりなく、安穏と仮想現実の中で暮らすことができる。でもそれは奴隷の生から目を背けるための幻覚に過ぎない。これに対し、赤いピル(現実薬)を飲めばリアル世界と対峙し、戦場のような日々を生きることになる。でもそれは人間として生きる実存の痛みなのです。「貴方はどちらを選ぶのか?」ということです。
西村:これほど酷い状況になれば、仮想現実に逃げ込んだところでどうにもなりません。「だったら現実と向き合ってやろうじゃないか!」と私は思います。おそらくこの対談を読んでいる方々も同じ気持ちでしょう。
秋嶋:我々は紛れもなく戦後最大の危機を迎えています。しかし現実を直視する機運が高まり、知的反抗が広まるとしたら、この危機を乗り越え、暗黒状況を変えることができるかもしれません。新著にはそんな思いを込めているのです。
西村:ありがとうございました。一人でも多くの方が読んでくれることを期待しております!